むくみに五苓散―体にたまった「水」を整える漢方のちから
身近な不調「むくみ」と五苓散
朝起きたときに顔が腫れぼったい、夕方になると足がパンパンになる、指輪や靴がきつく感じる。こうした「むくみ」は、多くの人が一度は経験する身近な不調です。検査をしても大きな病気は見つからないけれど、体は重だるく、見た目も気になる。そんなときに、日本の医療現場で古くから、そして現在も広く使われている漢方薬が「五苓散(ごれいさん)」です。
むくみが起こるメカニズム
むくみとは、体の中の水分バランスが崩れ、必要以上の水が皮膚や皮下組織にたまった状態を指します。私たちの体の約60%は水分でできており、血液やリンパ、細胞の中外を行き来しながら、体温調節や栄養の運搬、老廃物の排出といった重要な役割を担っています。しかし、暑さや冷え、気圧の変化、ストレス、ホルモンバランスの乱れ、加齢などが重なると、この水の流れが滞り、むくみとして表に現れます。
西洋医学と漢方医学、それぞれのアプローチ
西洋医学では、むくみの原因として心臓、腎臓、肝臓、甲状腺などの病気をまず考えます。これらが否定された場合でも、日常生活に支障をきたすむくみは少なくありません。こうした「病気ではないけれどつらい不調」に対して、漢方医学は体全体のバランスの乱れとして捉え、穏やかに整えていくことを得意としています。
五苓散とは―五つの生薬が調える「水の巡り」
五苓散は、沢瀉(たくしゃ)、猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、蒼朮(そうじゅつ)、桂皮(けいひ)という五つの生薬から構成される漢方薬です。古代中国の医学書『傷寒論』を原典とし、日本では保険診療でも処方される代表的な処方の一つです。その特徴は、体の中の「水の巡り」を調整する点にあります。単純に水を出すのではなく、足りないところには行き渡らせ、余分なところからは排出する、いわば水分代謝の司令塔のような役割を果たします。
むくみ以外にも―幅広い「水」のトラブルに対応
そのため五苓散は、顔や手足のむくみだけでなく、雨の日や台風の前に悪化する頭痛、めまい、吐き気、下痢、二日酔いなど、「水」と関係の深い症状に幅広く用いられます。最近では、気圧の変化による体調不良、いわゆる「気象病」への関心が高まる中で、五苓散がメディアや医療現場で改めて注目されています。
五苓散が向いている人―体質と症状の見極め
むくみに対する五苓散の使い方で重要なのは、「どんな体質・状態の人に向いているか」を見極めることです。漢方では、のどが渇くのに水をたくさん飲めない、尿の量が少ない、天候や湿気で体調が左右されやすい、といった特徴がある人は、水分代謝が滞りやすいと考えます。冷たい飲み物をよく摂る、デスクワークで長時間同じ姿勢が続く、女性では月経前にむくみやすい、こうした背景がある場合、五苓散が合うことが少なくありません。
使用上の注意―すべてのむくみに適しているわけではない
一方で、すべてのむくみに五苓散が適しているわけではありません。高齢者で著しく体力が低下している場合や、明らかな心臓・腎臓病によるむくみでは、他の治療が優先されます。また、漢方薬は自然由来とはいえ医薬品であり、体質に合わなければ効果が出にくい、あるいは胃部不快感などの副作用が起こることもあります。そのため、自己判断で長期間使用するのではなく、医師や薬剤師に相談しながら使うことが大切です。
生活習慣の見直しと漢方の組み合わせ
日常生活の中で、五苓散の効果を引き出すためには、生活習慣の見直しも欠かせません。塩分の摂りすぎを控え、冷たい飲食物を摂りすぎないこと、適度に体を動かして筋肉のポンプ作用を活かすこと、湯船につかって血流を促すこと。こうした基本的なケアと漢方治療を組み合わせることで、むくみはより改善しやすくなります。
むくみは体からのサイン―「水の巡り」という視点
むくみは命に関わる症状ではないと思われがちですが、体からの大切なサインでもあります。「年のせい」「体質だから」と諦める前に、水の巡りという視点から体を見直してみる。その選択肢の一つとして、五苓散は今も多くの人の生活を支えています。

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
