帯状疱疹と心臓・血管の病気──知っておきたい大切なこと
[2025.11.01]
帯状疱疹は「皮膚だけの病気」と思われがちですが、実は心臓や脳にも影響を及ぼす可能性があることが、世界中の研究で明らかになってきました。この記事では、帯状疱疹と心臓・血管の病気との関係、そしてワクチンで予防できる可能性について解説します。
帯状疱疹になると、心臓や脳の病気が増えるって本当?
世界中のたくさんの研究から、帯状疱疹になった後は、心臓や脳の病気になりやすくなることがわかってきました。
どのくらいリスクが上がるの?
- 帯状疱疹になった後の1ヶ月間は、脳の血管が詰まったり破れたりする病気(脳卒中)になる確率が約1.8倍に増えます[参考文献 1]
- 心臓の血管が詰まる病気(心筋梗塞)も、発症後30日以内で約1.4倍増えることが報告されています[参考文献 2]
- このリスクは時間とともに下がっていきますが、数年間は通常より少し高い状態が続きます
こんな方は特に注意が必要です:
- 目の周りに帯状疱疹ができた方
- 40歳より前の若い年齢で帯状疱疹になった方
- もともと血圧が高い方、糖尿病がある方、心臓の病気をお持ちの方
どうして皮膚の病気が心臓に影響するの?
帯状疱疹のウイルスは、実は皮膚だけでなく、体の中の血管にも入り込むことがあります。少し難しく感じるかもしれませんが、順を追って説明しますね。
体の中で起きていること:
- ウイルスが血管を傷つけます
- ウイルスは神経の通り道を伝って、脳や心臓につながる血管にまで到達することがあります
- 血管の内側の壁が炎症を起こして、傷つきやすくなってしまいます
- 体全体が炎症を起こします
- 帯状疱疹になると、体が病気と戦おうとして、体中で「炎症」という反応が起きます
- この炎症が血管を傷つけて、血液が固まりやすい状態になります
- その結果、血の塊(血栓)ができやすくなり、心臓や脳の血管が詰まってしまうことがあります
- 痛みによる体への負担
- 帯状疱疹のピリピリとした強い痛みは、体にとって大きな負担になります
- 痛みによるストレスや、免疫力(体を守る力)が落ちること自体も、心臓や血管に悪い影響を与えてしまいます
ワクチンで心臓も守れる!──127万人を調べた大きな研究
2025年に韓国で発表された、とても大きな研究があります。なんと127万人以上の方を調べたところ、驚くべき結果が明らかになりました[参考文献 3]。
ワクチンを打った人には、こんな良い効果が:
- 心臓の血管が詰まる病気や、脳の血管が詰まる・破れる病気などが、全体で23%減りました
- 特に重い心臓・脳の病気(心臓や脳の血管が詰まる病気、心臓病で亡くなること)は26%減りました
- 心臓が弱って働きが悪くなる病気(心不全)も26%減りました
こんな方には特に効果が高いことが分かりました:
- 男性の方
- 60歳より前の方
- タバコを吸う習慣がある方、お酒を飲む習慣がある方
では、どうすればいいの?──みなさんへのアドバイス
1. 帯状疱疹ワクチンを検討しましょう
- 50歳を過ぎたら、当院までご相談ください
- お住まいの市区町村によっては、費用の一部を助成してくれる場合もありますので、確認してみましょう
笠松町の令和7年4月のホームページの記事のリンクをご覧ください。
2. もし帯状疱疹になってしまったら
- できるだけ早く(できれば3日以内に)当院へお問い合わせください
- 「抗ウイルス薬」というお薬を早めに飲むことで、ウイルスが体の中で広がるのを防ぐことができます
- 皮膚科で診てもらうのはもちろんですが、できれば内科でも血圧などをチェックしてもらうと安心です
3. 帯状疱疹が治った後も注意が必要です
- 帯状疱疹が治ってからも、1年間くらいは心臓や脳の様子に気をつけてください
- こんな症状が出たら、すぐに病院に連絡してください:
- 急に胸が痛くなったり、胸が押されるような感じがする
- 息が苦しくなる
- 片方の手や足が動かしにくくなる
- うまく話せなくなる、ろれつが回らない
- 今までに経験したことのないような、激しい頭痛
4. 心臓を守るために、日々の生活で気をつけること
- 血圧、コレステロール、血糖値を、定期的に測ってもらいましょう
- タバコを吸っている方は、できれば禁煙にチャレンジしてみましょう
- 無理のない範囲で、体を動かす習慣をつけましょう(散歩でも十分です)
- 野菜や魚を中心とした、バランスの良い食事を心がけましょう
- 夜はしっかり休んで、十分な睡眠をとりましょう
最後に──大切なことをもう一度
- 帯状疱疹は「皮膚だけの病気」ではありません。心臓や脳にも影響することがあります。
- 帯状疱疹ワクチンは、皮膚の病気を防ぐだけでなく、心臓や脳の病気を減らす効果も期待できます。
- 50歳を過ぎたら、ぜひかかりつけの先生に「ワクチンについて教えてください」と相談してみてください。
- もし帯状疱疹になってしまったら、早めに病院を受診して、治った後も1年間は体調の変化に気をつけましょう。
参考文献
- Marra F, et al. A meta-analysis of stroke risk following herpes zoster infection. BMC Infectious Diseases. 2017;17:198.
- Matsumoto H, et al. Herpes Zoster and Cardiovascular Disease: Exploring Associations and Preventive Measures through Vaccination. Vaccines. 2024;12(3):252.
- Lee S, et al. Live zoster vaccination and cardiovascular outcomes: a nationwide, South Korean study. European Heart Journal. 2025;46(30):2991-3002.
※この情報は2025年10月時点のものです。実際の治療や予防については、必ずかかりつけの先生とご相談ください。
(追加)
目の周りの帯状疱疹が特に危険な理由
1. 脳の血管に近い
目の周りの帯状疱疹は、「三叉神経」という顔の感覚を司る大きな神経の一部(眼神経)に沿って起こります。この神経は頭蓋骨の中を通って脳に直接つながっているため、ウイルスが脳の血管に到達しやすいのです。
2. 重要な血管が通っている
目の周りには、脳に血液を送る重要な血管(内頸動脈など)が通っています。ウイルスがこれらの血管に炎症を起こすと、脳卒中のリスクが高まります。
3. 炎症が強い
研究によると、目の周りの帯状疱疹は他の部位よりも:
- 血管の炎症が強く起こりやすい
- 脳卒中のリスクが通常の帯状疱疹の2〜4倍にもなる
- 発症後数ヶ月〜1年間、特に注意が必要

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
