【便秘に使われる代表的な漢方薬とは?】~潤腸湯・防風通聖散・麻子仁丸の違いと選び方~
「便秘には漢方薬が効くと聞いたけれど、種類が多くてどれが自分に合うのか分からない」——このようなご相談は少なくありません。便秘に使われる漢方薬は、体力や体型、便の性状によって向き不向きがはっきり分かれるのが特徴です。今回は、当院でよくご提案する潤腸湯(じゅんちょうとう)・防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)・麻子仁丸(ましにんがん)の3つを取り上げ、それぞれどんな方に向いているのか、どのように使い分けるのかを、少し専門的な内容も交えてご説明します。
3つの漢方薬、こんな方に適しています
便秘の漢方薬は「体力が充実しているか、低下しているか」で選ぶものが大きく分かれます。がっちりした体型で体力が充実している方には防風通聖散、高齢や虚弱で便が乾いて硬い方には麻子仁丸や潤腸湯が向いています。体格や体力によって合う処方が大きく異なるため、自己判断より医師・薬剤師への相談をおすすめします。
3つの漢方薬をひと目で比較
同じ「便秘の薬」でも、体力や体型、便の性状によって向いている処方が異なります。
潤腸湯
体力:低下気味〜中程度
体型:やせ型・高齢者に多い
効き目はマイルドで、体を潤しながら排便を促す。高齢者の軽症〜中等症の便秘向け。
防風通聖散
体力:充実
体型:がっちり・お腹に脂肪が多い
便秘に加えて肥満・のぼせ・むくみを伴う方向け。体力のない方には不向き。
麻子仁丸
体力:中程度〜やや低下
体型:高齢・やせ型に多い
便が乾いてコロコロと硬い方向け。強い下剤でお腹が痛くなりやすい方にも。
漢方における便秘の考え方
漢方薬は、大きく分けて「瀉下(しゃげ)」と「潤腸(じゅんちょう)」という2つの働きで便通を促します。瀉下は、大黄(だいおう)などの生薬で腸の動きそのものを強く刺激するタイプ、潤腸は、油分を含む生薬や体に潤いを与える生薬で便を柔らかくし、自然な排便を促すタイプです。多くの便秘薬は、この2つの働きを組み合わせて処方されており、体力のある方には瀉下の力が強い処方を、体力が低下している方や高齢の方には潤腸を中心とした穏やかな処方を選ぶのが基本的な考え方です。
強い下剤でお腹が痛くなったり、下りすぎて困ったりした経験がある方は、瀉下作用の強い処方よりも、潤腸を中心とした処方の方が体に合っていることがあります。
潤腸湯(じゅんちょうとう)
高齢の方の、乾燥してコロコロした便秘に、穏やかに働きかける処方です。
- 便が乾燥して硬い
- 高齢で体力が低下している
- 肌もカサつき気味である
- お腹に軽い張りがある
潤腸湯は、便秘に用いる基本処方である小承気湯(しょうじょうきとう)に麻子仁・杏仁を加えた「麻子仁丸」から芍薬を除き、地黄(じおう)・当帰(とうき)・桃仁(とうにん)・黄芩(おうごん)・甘草(かんぞう)を加えた処方です。地黄・当帰が体に潤いを与え、桃仁が油分を含んだ潤滑油のように働くことで、体力や体液(うるおい)が低下しがちな高齢の方の便秘に用いられます。厚朴(こうぼく)・枳実(きじつ)が腸内のガスを解消する働きも兼ね備えています。効き目はマイルドで、軽症から中等症の便秘に向いた処方です。
麻子仁丸(ましにんがん)
便が乾いてウサギの糞のようにコロコロと硬くなるタイプの便秘に用いられます。
- 便がコロコロと硬い
- 排便回数が減っている
- 高齢・産後・病後である
- 強い下剤でお腹が痛くなりやすい
麻子仁丸は、大黄・枳実・厚朴からなる小承気湯に、麻子仁・杏仁・芍薬を加えた処方です。麻子仁と杏仁はどちらも種子を用いる生薬で、油分によって腸を潤し、大黄がおだやかに排便を促します。緩和な下剤として、高齢者や産後、病後の便秘、痔核がある方、肛門の手術後の便秘などに幅広く使われています。ただし、体力そのものを補う働きはほとんどないため、疲れやすさを伴う気虚タイプの便秘には六君子湯や補中益気湯などと併用されることもあります。
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
体力が充実し、お腹まわりに脂肪がつきやすい方の便秘に用いられます。
- 体力が充実し、がっちりした体格
- お腹に皮下脂肪が多い
- 便秘に加えてむくみ・のぼせがある
- 肥満に伴う肩こり・動悸がある
防風通聖散は、大黄・芒硝(ぼうしょう)といった瀉下作用のある生薬に加え、麻黄(発汗)、防風・荊芥(けいがい:発散)、黄芩・山梔子(消炎)など、18種類もの生薬を組み合わせた、エキス製剤の中でも構成生薬数が最多の処方です。便通を促すだけでなく、発汗・利尿を通じて体内の余分な水分や老廃物の排出を助けることから、便秘を伴う肥満症や、高血圧に伴うむくみ・肩こり・のぼせにも用いられます。市販のダイエット向け漢方薬(ナイシトール、コッコアポ など)の多くにも、この防風通聖散が配合されています。
一方で、防風通聖散は体力が充実した「実証」タイプ向けの処方であり、体力が低下している方や、病後で衰弱している方、高齢の方が服用すると、かえって体調を崩したり、副作用が出やすくなったりすることが知られています。体力に自信がない方は、防風通聖散よりも潤腸湯や麻子仁丸の方が向いていることが多いといえます。
服用のタイミングと飲み方のコツ
いずれの処方も、成人の場合は1日2〜3回、食前または食間の服用が基本です。ただし、便秘薬は「毎日きっちり同じ量」ではなく、便の状態に応じて量を調整しながら使うことが多いのも特徴です。麻子仁丸の古典的な条文にも「大便が快通する程度に加減して用いる」とあり、下がりすぎる場合は量を減らす、効きが弱ければ量を増やすといった微調整が想定されています。
自己判断で量を大きく変えるのではなく、まずは決められた量から始め、便の状態をみながら医師・薬剤師と相談して調整していくことをおすすめします。
共通して気をつけたい副作用・注意点
3つの処方はいずれも、大黄をはじめとする瀉下系の生薬を含んでいるため、体質によっては次のような症状が起こることがあります。
特に防風通聖散を服用中の方へ
- 甘草・麻黄を含むため、動悸・血圧上昇・むくみなどが起こることがあります
- まれに黄疸を伴う肝機能障害が報告されています
- 長期間の服用で、腹痛・下痢・便秘を繰り返す「腸間膜静脈硬化症」という腸の血流障害が起こることがあります
- 市販のダイエット薬にも配合されていることがあり、重複服用に注意が必要です
潤腸湯にも黄芩(おうごん)という生薬が含まれており、体質によってはまれにアレルギー性の肝機能障害を起こすことがあります。だるさ、食欲不振、白目や皮膚が黄色くなるといった症状が出た場合は、服用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。
受診の目安
市販の便秘薬や漢方薬を使っても改善しない便秘が続く場合、体重減少や血便を伴う場合は、大腸の病気が隠れている可能性もあるため、消化器内科などでの検査をおすすめします。また、防風通聖散を長期間服用している方で、腹痛・下痢・便秘を繰り返す、便潜血が陽性になったといった場合は、自己判断で服用を続けず、医療機関を受診してください。だるさや食欲不振、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合も、服用を中止し、早めにご相談ください。
漢方薬と合わせて行いたいセルフケア
便秘の改善には、漢方薬に頼るだけでなく、日々の生活習慣を整えることも大切です。
特に高齢の方は、水分摂取量が減りがちなことが便秘の一因になっていることがあります。また、便意を感じたときに我慢する習慣が続くと、直腸の感覚が鈍くなり、便秘が悪化することもあります。毎日決まった時間にトイレに座る習慣をつけることも、腸のリズムを整えるうえで効果的です。
患者さんからよくいただくご質問
Q. 潤腸湯と麻子仁丸、どちらが自分に合うか分かりません。
どちらも高齢の方や体力が低下した方の便秘に用いられますが、麻子仁丸の方がやや瀉下の力が強い処方です。国内で行われた高齢者の慢性便秘に対する比較研究では、麻子仁丸の方が潤腸湯よりもやや高い有効率を示し、特に体力が低下している方でより効果が高い傾向がみられたとする報告があります。ただし個人差があるため、まずは医師にご相談のうえで選ぶことをおすすめします。
Q. 防風通聖散はダイエット目的でも飲んでいいですか?
体力が充実したタイプの方の肥満症・便秘には用いられることがありますが、体力が低下している方や高齢の方には向きません。また市販のダイエット向け漢方薬と処方薬を重複して服用してしまうケースもあるため、服用中の市販薬がある場合は必ず医師・薬剤師にお伝えください。
Q. 漢方の便秘薬は毎日飲み続けても大丈夫ですか?
潤腸湯や麻子仁丸は比較的長期に使われることが多い処方ですが、防風通聖散は長期連用でまれに腸の血流障害(腸間膜静脈硬化症)が報告されているため、長期間服用する場合は定期的に医師の診察を受けることをおすすめします。
まとめ
3つの漢方薬は、それぞれ次のような方に向いています。
- 潤腸湯:高齢で体力が低下し、穏やかな効き目を求める方
- 麻子仁丸:便が硬くコロコロしていて、強い下剤が合わない方
- 防風通聖散:体力が充実し、便秘に肥満やむくみを伴う方
同じ「便秘」でも、体力や体型によって向いている漢方薬は大きく異なります。特に防風通聖散は体力のない方には不向きで、長期服用時の注意点も他の2つより多いため、自己判断での選択・長期使用は避け、症状や体質に合わせて医師と一緒に選ぶことをおすすめします。
体重減少や血便を伴う便秘、漢方薬を使っても改善しない便秘が続く場合は、自己判断で様子をみすぎず、早めに医療機関を受診してください。

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
