妊娠中・授乳中の処方について|よくある症状と薬の考え方
「妊娠中だから」「授乳中だから」と、体調が悪くても薬を我慢してしまう方は少なくありません。しかし、病気を十分に治療しないことが、かえって母体や赤ちゃんにとって不利益になる場合もあります。このコラムでは、当院でよくご相談いただく症状について、代表的な対応の考え方をご紹介します。
肺炎やインフルエンザ、COVID-19など重症な感染症を疑う所見がなく、いわゆる「かぜ」に対して症状を和らげる治療を行う場合の一例です。
処方例| 薬剤名 | 1回量 | 回数 | タイミング | 日数 |
|---|---|---|---|---|
| アセトアミノフェン錠 250mg | 2錠 | 1日3回 | 毎食後 | 5日分 |
| デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠 15mg | 1錠 | 1日3回 | 毎食後 | 5日分 |
| アンブロキソール塩酸塩錠 | 1錠 | 1日3回 | 毎食後 | 5日分 |
| トローチ | 1錠 | 頓用 | のどが痛いとき | 12回分 |
妊娠中の発熱・疼痛にはアセトアミノフェンが第一選択として広く使用されています。国立成育医療研究センターも、妊娠中のアセトアミノフェンは従来どおり使用可能としています。
一方、ロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、とくに妊娠後半で胎児への影響が問題となるため、自己判断での使用や漫然とした投与は避けましょう。
薬物療法が必要な場合には、妊娠中の使用経験が比較的豊富な抗ヒスタミン薬などを検討します。
処方例 A| 薬剤名 | 1回量 | 回数 | 日数 |
|---|---|---|---|
| フェキソフェナジン塩酸塩錠 60mg | 1錠 | 1日2回 | 14〜28日分 |
| 薬剤名 | 1回量 | 回数 | 日数 |
|---|---|---|---|
| セチリジン塩酸塩錠 10mg | 1錠 | 1日1回 | 14〜28日分 |
| 点鼻薬 | — | 1日2回 | — |
鼻の症状が強い場合には、点鼻薬を併用する治療を検討することもあります。
まずは水分摂取、食物繊維の摂取、適度な運動などの生活習慣の調整を行い、それでも便秘が続く場合には浸透圧性下剤などを検討します。
処方例| 薬剤名 | 1回量 | 回数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸化マグネシウム錠 330mg | 1〜2錠 | 1日3回 | 便の状態に応じて調整 |
便が軟らかくなりすぎる場合は減量します。腎機能が低下している方では高マグネシウム血症のリスクがあるため、腎機能を考慮したうえで使用します。必要に応じて、刺激性下剤を短期間追加することもあります。
国立成育医療研究センターでは、妊娠初期に接種した妊婦さんでも先天異常発生率の増加は認められておらず、むしろ妊娠中のインフルエンザ感染予防のために接種が勧められるとしています。
接種例| ワクチン名 | 接種量 | 回数 |
|---|---|---|
| インフルエンザHAワクチン(成人) | 通常0.5mL | 1回 |
添付文書上、13歳以上では1回または2回接種とされていますが、厚生労働省は健康な成人について0.5mLの1回接種で十分な抗体上昇が得られるとの知見を示しています。
| ワクチンの種類 | 妊娠中の接種 |
|---|---|
| 注射用 不活化インフルエンザワクチン | 〇 |
| 経鼻弱毒生ワクチン | × |
夜間に咳が出る場合は、喘息のコントロールが十分でない可能性があります。単純に咳止めを追加するのではなく、吸入ステロイドを中心に治療内容を見直すことが大切です。
国立成育医療研究センターでは、ブデソニドやモンテルカストは授乳中に安全に使用できると考えられる薬剤として掲載されています。
処方例| 薬剤名 | 用法 | 備考 |
|---|---|---|
| ブデソニド吸入剤 | 1日2回吸入 | 必要に応じて発作時の気管支拡張薬を併用 |
夜間の症状が残る場合には、吸入の手技や服薬状況を確認したうえで、以下のような追加を検討します。
| 薬剤名 | 1回量 | 回数 | タイミング |
|---|---|---|---|
| モンテルカスト錠 10mg | 1錠 | 1日1回 | 就寝前 |
まとめ ── 「妊娠中・授乳中=薬が使えない」ではありません
・「妊娠中・授乳中だから薬は一切使えない」というわけではありません。病気を十分に治療しないことが、かえって母体や赤ちゃんにとって不利益になる場合もあります。
・妊娠中は妊娠週数によって薬剤の影響が異なります。自己判断で市販薬を追加せず、必ず医師・薬剤師にご確認ください。
・妊娠中の発熱にはアセトアミノフェンが第一選択です。
・妊娠中でも注射用の不活化インフルエンザワクチンは接種可能で、感染予防のために接種が勧められています。
・授乳中も、多くの薬剤は母乳中への移行量が少なく、適切な薬剤を選択すれば治療と授乳を両立できます。
参考文献
- 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/ - 国立成育医療研究センター「妊娠と薬について知りたい方へ」
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
