インフルエンザA型・B型の違いと対策:症状・重症化リスク・予防法を解説
毎年冬から春にかけて流行するインフルエンザには、主にA型とB型の2つのタイプがあります。「A型は重症化しやすい」「B型は比較的症状が軽い」といった話を聞いたことがあるかもしれませんが、実際にはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、A型・B型インフルエンザの特徴、症状の違い、重症化リスク、そして効果的な予防・対策方法について詳しく解説します。
A型・B型インフルエンザウイルスの違い
A型インフルエンザとは
A型インフルエンザウイルスは、毎年のように姿を変える(変異する)という特徴があります。そのため、去年インフルエンザにかかった方でも、今年また感染してしまうことがあります。毎年変異して異なる形で流行するため、世界的な大流行を引き起こすのもA型です。通常は11月頃から流行が始まり、症状が急に強く現れやすいという特徴があります。
B型インフルエンザとは
B型インフルエンザウイルスは、主に人間にだけ感染し、A型に比べて変異するスピードがゆっくりです。変異するスピードが遅いため、A型ほど頻繁に大きな流行を起こすことはありません。A型の流行の後、1~3月頃に流行することが多く、症状の出方が比較的ゆっくりな場合があります。
どんな症状が出るの?
感染してから症状が出るまで
インフルエンザウイルスに感染すると、1~3日程度(長くて5日程度)で症状が現れます。突然の高熱や悪寒、だるさ、頭痛から始まり、その後、喉の痛みや咳などが続くのが一般的です。
A型・B型に共通する症状
どちらの型でも、38℃以上の高熱、頭痛、寒気、筋肉痛、関節痛、全身のだるさ、喉の痛み、咳、鼻水、食欲がなくなるといった症状が現れます。普通の風邪よりも症状が強く、特に全身のだるさや筋肉痛が特徴的です。
A型とB型で違いはあるの?
A型は、急に高い熱が出やすく、全身の症状が強く出やすい傾向があります。特に高齢の方や持病のある方は悪化しやすいと言われています。一方、B型は熱の上がり方がやや穏やかなことがありますが、症状が長引きやすく、お腹の症状(下痢、腹痛、吐き気)が出やすいという特徴があります。
ただし、医師の間では「A型とB型で重症化のリスクに大きな差はない」という意見もあります。大切なのは、その方の年齢や持病の有無です。どちらの型であっても、適切な対応が必要なことに変わりはありません。
どんな人が重症化しやすい?
特に注意が必要な方
ウイルスの型に関係なく、65歳以上の高齢者、心臓病や呼吸器の病気、腎臓病、糖尿病などの持病がある方、妊娠中の方、小さなお子さん、免疫が弱っている方、肥満の方、喫煙している方は重症化しやすいので注意が必要です。
これらの方は、普段から健康な方に比べて、インフルエンザウイルスと戦う力が弱かったり、感染によって持病が悪化したりするリスクが高くなります。そのため、予防接種を受けることや、流行期には特に感染予防に気をつけることが大切です。
合併症について
インフルエンザで本当に注意が必要なのは、肺炎などの合併症です。肺炎には、ウイルスが直接肺に入って起こるものと、細菌による二次感染で起こるものがあります。また、気管支炎や、もともとある呼吸器の病気が悪化することもあります。
お子さんでは中耳炎が起こることが多く、まれですが重症のインフルエンザ脳症という合併症もあります。その他にも、心筋炎、腎臓の障害、ショック状態など、命に関わる合併症が起こることもあります。
特にインフルエンザ脳症は、熱が出てから24時間以内にけいれんや意識障害が起こることがあり、すぐに治療が必要です。お子さんの様子がいつもと違う、呼びかけても反応が鈍いなどの症状があれば、迷わず救急外来を受診してください。
病院での診断と治療
どうやって診断するの?
病院では、鼻に綿棒を入れる検査で、15分程度でA型かB型かが分かります。ただし、熱が出てすぐだとウイルスの量が少なく、正確に判定できないことがあります。発症から12~24時間後の検査が最も正確な結果が得られます。症状が出てすぐに病院に行っても、検査結果が陰性になってしまうことがあるため、タイミングも大切です。
どんな治療をするの?
抗インフルエンザ薬は、A型・B型の両方に効果があります。発症から48時間以内に薬を飲むと効果的で、症状を軽くし、治るまでの期間を短くできます。また、重症化を防ぐ効果もあります。
薬による治療と合わせて、解熱剤、水分補給、安静も大切です。解熱剤については、お子さんに使える薬には制限があるので、必ず医師の指示に従ってください。
予防・対策はどうすればいい?
ワクチン接種が最も重要
日本で使われているインフルエンザワクチンは、A型とB型の両方に効くように作られています。ワクチンは感染を完全には防げませんが、重症化をしっかり防ぐことができます。特に高齢者や持病のある方の死亡率や入院率を大きく下げる効果があります。
ワクチンは接種してから効果が出るまで約2週間かかるので、11月中に受けるのがおすすめです。毎年流行する株が変わるため、毎年接種することが大切です。
日常生活でできる予防法
基本的な予防として、石鹸で30秒以上しっかり手を洗うこと、人混みや電車ではマスクを着けること、咳やくしゃみは肘の内側で受けること、部屋の空気を定期的に入れ替えること、部屋の湿度を50~60%に保つことが大切です。
また、生活習慣を整えることも重要です。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけ、適度な運動をすることで、体の抵抗力を高めることができます。ストレスをためないこと、タバコやお酒を控えることも、免疫力を保つために大切です。
流行している時期の注意点
インフルエンザが流行している時期には、できるだけ外出を控え、人混みを避けるようにしましょう。ドアノブや手すりなど、多くの人が触る場所はウイルスが付着している可能性があるので、こまめに拭くか、触った後は手を洗うようにしてください。体調が悪いと思ったら早めに病院を受診することも大切です。
こんな症状があったらすぐ病院へ
39℃以上の高熱が続く、息が苦しい、胸が痛い、意識がもうろうとする、けいれんを起こす、水が飲めない(脱水)といった症状がある場合は、我慢せずにすぐに病院を受診してください。これらは重症化のサインである可能性があります。
お子さんの場合は、呼びかけても反応が鈍い、異常に興奮している、何度も吐いてしまうといった症状にも注意が必要です。いつもと様子が違うと感じたら、迷わず設備の整った総合病院への相談が望ましいです。
家族がインフルエンザになったら
家での対応方法
家族がインフルエンザになったら、できれば別の部屋で休んでもらうようにしましょう。看病する人は1人に決めて、その人以外はなるべく患者さんと接触しないようにします。患者さんも看病する人もマスクをつけ、食器やタオルは別々にすることが大切です。部屋の空気はこまめに入れ替えて、ウイルスがこもらないようにしましょう。
看病する人は、患者さんのお世話をした後は必ず手を洗い、できればアルコール消毒もしてください。患者さんが使ったティッシュなどは、ビニール袋に入れて口を縛ってから捨てるとよいでしょう。
患者さん自身が気をつけること
インフルエンザにかかったら、水分と栄養をしっかりとることが大切です。高熱で汗をかくと脱水になりやすいので、こまめに水分補給をしてください。医師の指示通りに薬を飲み、十分に休養をとりましょう。
熱が下がっても2日間は外出を控えてください。熱が下がったからといって、すぐにウイルスがいなくなるわけではありません。咳やくしゃみをする時は、マスクやティッシュで口を覆い、周りの人にうつさないように気をつけましょう。
まとめ
インフルエンザA型・B型は、それぞれ特徴が違いますが、重症化のリスクや予防の基本は同じです。A型の方が症状が急に強く出やすい一方、B型も決して軽く見てはいけません。大切なのは、ウイルスの型よりも、その方の年齢や持病です。
ワクチン接種と日頃の感染対策をしっかり行い、症状が出たら早めに病院を受診することで、重症化を防ぐことができます。インフルエンザワクチンを10月〜11月中に接種すること、手洗い・マスクを習慣にすること、部屋の換気と加湿をすること、しっかり睡眠をとりバランスの良い食事をすること、熱が出たらすぐに受診できるようかかりつけ医を決めておくことが大切です。
毎年やってくるインフルエンザですが、正しい知識を持って備えることで、自分自身と大切な家族を守ることができます。
よくある質問(Q&A)
Q1. A型とB型、両方に同時に感染することはありますか?
A: 理論的には可能ですが、実際には非常に稀です。一方の型に感染すると免疫システムが活性化され、もう一方の型への感染も抑制される傾向があります。ただし、時期をずらして両方に感染することは十分に起こり得ます。
Q2. 去年インフルエンザにかかったのに、今年もかかりました。なぜですか?
A: A型インフルエンザウイルスは変異しやすく、毎年流行する株が異なるためです。また、A型とB型は別のウイルスですので、A型に感染してもB型への免疫は得られません。これが毎年ワクチン接種が推奨される理由でもあります。
Q3. インフルエンザの検査はいつ受けるのがベストですか?
A: 発症から12~24時間経過後が最も正確な結果が得られます。発症直後や発症から48時間以上経過した場合は、ウイルス量の関係で正確な判定が困難になることがあります。ただし、症状が重篤な場合は時間に関わらず早期受診が重要です。
Q4. 熱が下がったらすぐに仕事や学校に行って大丈夫ですか?
A: 解熱後も2日間(幼児は3日間)は外出を控えることが推奨されています。熱が下がってもウイルスの排出は続いており、他の人への感染リスクがあるためです。職場や学校へ連絡をして、担当者あるいは学校の先生に相談をしましょう。
Q5. インフルエンザワクチンを打ったのにかかりました。ワクチンは効果がないのでしょうか?
A: ワクチンの主な効果は「重症化予防」です。感染を100%防ぐものではありませんが、症状の軽減や重篤な合併症の予防に大きな効果があります。ワクチンを接種していた場合、症状が軽く済んでいる可能性が高いです。
Q6. 子どもがインフルエンザになりました。解熱剤は使って大丈夫ですか?
A: アセトアミノフェンは安全に使用できますが、一部の解熱剤(ジクロフェナク、メフェナム酸など)は小児には推奨されません。インフルエンザ脳症との関連が指摘されているためです。必ず医師の指示に従って使用してください。
Q7. 妊娠中でもインフルエンザワクチンは接種できますか?
A: 妊娠中のワクチン接種は推奨されています。妊婦は重症化リスクが高く、また胎児への影響も懸念されるため、ワクチンによる予防効果は非常に重要です。妊娠のどの時期でも接種可能ですが、事前に産科医に相談することをお勧めします。
Q8. 家族がインフルエンザになりました。予防のために抗ウイルス薬を飲むべきでしょうか?
A: 予防投与は高リスク者(高齢者、基礎疾患を持つ方など)に対して医師が必要と判断した場合に行われます。健康な成人では通常推奨されません。まずは標準的な予防策(マスク、手洗い、換気など)を徹底しましょう。
Q9. インフルエンザとコロナウイルス感染症の見分け方はありますか?
A: 症状だけでの判別は困難です。どちらも発熱、咳、倦怠感などの共通症状があります。確実な診断のためには医療機関での検査が必要です。同時流行の時期には、両方の検査を行うことをおすすめします。
Q10. 自然感染とワクチン、どちらの免疫が強いですか?
A: 自然感染による免疫の方が一般的に強く、長期間持続します。しかし、インフルエンザは重篤な合併症や死に至るリスクがある疾患です。安全に免疫を獲得できるワクチン接種の方が、リスクとベネフィットを考慮すると推奨されます。

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
