マダニ感染症(SFTS)とは|症状・致死率・治療・予防を解説【2026年版】
春から秋にかけて、「マダニに刺されたかもしれない」というご相談が増えてきます。なかでもSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、はじめはありふれた発熱や下痢のようでいて、重症化すると命に関わることもある感染症です。この記事では、原因から症状、予防のポイントまで、できるだけやさしく整理しました。暖かくなってくると、キャンプや登山、畑仕事や草刈りなど、外で体を動かす機会がぐっと増えてきますね。そんな季節に、毎年のように話題になるのが「マダニ」です。
近年、日本ではマダニが運ぶ感染症、とりわけSFTS(重症熱性血小板減少症候群:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)の患者さんが増えています。以前は西日本を中心に報告されていましたが、その範囲は少しずつ広がっており、2025年には国内の患者数が過去最多に。2026年も高い水準が続いていると報告されています。
さらに最近では、マダニに刺されるだけでなく、感染した猫や犬から人へうつったと考えられるケースも報告され、ペットと暮らすご家庭でも関心が高まっています。とはいえ、いたずらに怖がる必要はありません。まずは正しく知っておくことが、ご自身とご家族を守る第一歩になります。
おおよその潜伏期間
おおよその致死率
確認された年
SFTSとはどのような病気か
SFTSは、日本語で「重症熱性血小板減少症候群」と呼ばれるウイルス感染症です。原因となるのはSFTSウイルスで、多くの場合、このウイルスを持ったマダニに刺されることでうつります。
この病気が世界で初めて報告されたのは、2011年の中国でのことでした。日本では2013年に初めての患者さんが確認され、その後は西日本を中心に報告が続いています。今では九州・中国地方・四国・近畿を中心に、加えて東海や関東でも少しずつ報告が増えてきました。もはや「西日本だけの病気」とは言えなくなってきているのが実情です。
「マダニ」と聞くと、目に見えないほど小さな虫を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ところが実際のマダニは、吸血前でも3〜8mmほど。血を吸うと1cm以上に大きくふくらむこともあります。お家のホコリに潜むイエダニとはまったく別の生き物で、森林や草むら、畑、河川敷、公園といった自然のなかに広く生息しています。
マダニという生き物を知る
マダニは、皮膚に口の部分(口器)をしっかり差し込み、数日かけてじっくりと血を吸います。この吸血のあいだに、ウイルスが体の中へ入り込みます。やっかいなのは、血を吸うほど体がふくらみ、見た目が別物のように変わっていくことです。
吸血前のマダニは約3〜8mm(小さいものは5mmほど)で、ちょうどゴマ粒くらいの大きさです。ところが皮膚に食いついて数日かけて血を吸うと、吸血後には約1cm以上にまでふくらみます。同じ一匹でも、吸血の前と後では、まるで別の虫のように見えるのです。
マダニはどこにいるのか
マダニは、山奥にだけいるわけではありません。じつは、私たちの暮らしのすぐそばにもたくさん生息しています。近年はシカやイノシシ、タヌキ、アライグマといった野生動物が増えたことで、マダニのすみかもいっそう広がっていると考えられています。たとえば、次のような身近な場所でも見つかっています。
どのように感染するのか
もっとも多いのは、SFTSウイルスを持ったマダニに刺されて感染するケースです。加えて近年は、体調をくずした猫や犬から人へうつった可能性が高い事例も報告されています。
マダニに刺される
皮膚に口器を差し込み、数日かけて吸血するあいだにウイルスが入り込みます。もっとも一般的な経路です。
感染した猫や犬から
弱った動物の血液や唾液に直接触れる場面で、まれにうつる可能性が指摘されています。
とくに気をつけたい場面
気をつけたいのは、具合の悪い野良猫、原因不明の高熱を出した犬や猫、そして動物の血液や唾液に直接触れる場面です。ふだんの生活のなかでペットから感染することはごくまれですが、弱った動物を素手で介抱するのは避け、まずは動物病院にご相談ください。
潜伏期間と症状の進み方
感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、およそ6〜14日です。屋外で過ごしてから1〜2週間ほどで発熱したときは、SFTSをはじめとするマダニ感染症も念頭に置く必要があります。受診のときに「いつ・どこで屋外活動をしたか」「マダニが付いていなかったか」を伝えていただけると、診断の大きな手がかりになります。
マダニに刺される
吸血のあいだにウイルスが体の中へ。刺されたことに気づかない方も少なくありません。
潜伏期間
目立った症状のない時期です。このあいだに、体の中でウイルスが増えていきます。
初期症状(風邪・胃腸炎に似る)
発熱や倦怠感、吐き気や下痢など。ありふれた症状のため、見逃されやすい段階です。
急速な悪化
数日で一気に進むことがあります。意識障害やけいれん、多臓器不全に至ることも。
主な症状
はじめは、風邪や胃腸炎とよく似た症状から始まります。ところが数日たつと、症状が急に重くなることがあります。
血液検査で特徴的な所見
| 血小板の減少 | SFTSに特徴的な所見のひとつです |
| 白血球の減少 | 感染に対する反応として低下します |
| 肝機能の異常 | AST・ALTなどの数値が上昇します |
| フェリチン高値 | 重症度をうかがう手がかりになります |
ご高齢の方や、もともと持病のある方は、重症化しやすい傾向があります。だからこそ、早めに診断して全身の状態をしっかり見守ることが、とても大切になります。
SFTSはどう診断されるのか
SFTSは、症状だけで見分けるのが難しい感染症です。発熱や下痢、倦怠感といった症状は、インフルエンザや新型コロナ、感染性胃腸炎などでもみられるからです。そのため、「マダニに刺されたかもしれない」「山林や畑、草地で活動した」といった行動の情報が、大切な手がかりになります。
医療機関ではまず、血液検査で血小板や白血球の減少、肝機能の異常などを確認します。SFTSが疑わしいときは、PCR検査などでウイルスの遺伝子を調べて診断します。専門の検査機関での検査が必要になるため、疑われる場合には、保健所や地方衛生研究所と連携しながら進めていきます。
屋外で活動したあとに高熱やお腹の症状が出たときは、「刺された覚えがないから大丈夫」と自己判断なさらず、受診の際にぜひ、屋外で過ごしたことをお伝えください。
治療法はあるのか
今のところ、SFTSに効く特効薬は限られていて、治療の中心は全身の状態を支える「支持療法」になります。点滴による水分・栄養の補給、熱や痛みへの対応、必要に応じた酸素投与や人工呼吸器での呼吸管理、血圧や腎臓の働きの管理などを行います。重症の場合には、集中治療室(ICU)での治療が必要になることもあります。
近年は、一部の抗ウイルス薬について有効性の研究が進んでいますが、今のところ、すべての患者さんに使える確立した治療とはなっていません。だからこそ、できるだけ早く診断を受け、重くなる前に適切な医療につなげることが、何より大切です。
致死率はどのくらいか
SFTSは、日本で報告されているマダニ感染症のなかでも、とくに重症化しやすいことで知られています。国内で報告されている致死率はおよそ20〜30%とされ、ご高齢の方ではさらに高くなる傾向があります。
とはいえ、すべての方が重症化するわけではありません。早めに受診して全身の状態を管理することで、救命できる可能性は高くなります。「高熱が続く」「嘔吐や下痢が止まらない」「意識がぼんやりする」——そんなときは、どうかためらわずに受診してください。
マダニに刺されたら
マダニは、皮膚にしっかり食い込んで血を吸っています。無理に引っ張ると口の部分が皮膚に残ってしまい、炎症や細菌感染の原因になることがあります。ご自分で無理に取ろうとせず、できるだけ早く皮膚科や外科などを受診してください。専用の器具で安全に取り除き、必要に応じて経過をみたり、治療を行ったりします。
マダニを取り除けても、油断は禁物です。刺されてから約2週間は体調の変化に気をつけ、発熱・倦怠感・食欲低下・下痢などが現れたら、「マダニに刺されたこと」を医師に伝えて受診してください。
- 肌の露出を減らす。山や草むらに入るときは長袖・長ズボンを着用し、ズボンの裾は靴下の中へ。マダニが皮膚まで到達しにくくなります。
- 明るい色の服を選ぶ。帽子や手袋も身につけ、明るい色の衣服にすると、付着したマダニを見つけやすくなります。
- 虫よけ剤を補助的に。ディートやイカリジンを含む虫よけ剤は、マダニ対策としても一定の効果が期待されます。ただし基本は衣服による物理的な防御です。
- 帰宅後は服を払い、早めに入浴。全身をよく確認しましょう。とくにマダニが付きやすい部位は以下の通りです。
- ペットのケアも忘れずに。犬や猫もマダニを運びます。散歩後はブラッシングを行い、動物用のマダニ予防薬を継続して使いましょう。
Q&A
Qマダニに刺されたら必ずSFTSになりますか?
いいえ、必ずなるわけではありません。すべてのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではないからです。ただ、可能性はゼロではないので、刺されたあとはしばらく体調の変化に気をつけていただくと安心です。
Q人から人へうつりますか?
ふだんの生活のなかでうつることはありません。ただし、患者さんの血液や体液に直接触れた医療従事者や介護をする方への感染が報告されているため、そうした場面では適切な感染対策が必要になります。
Q冬でも感染することはありますか?
マダニの活動は春から秋に活発になりますが、暖かい地域では冬でも動きまわることがあります。一年を通じて、少し気にかけておくと安心です。
過度に恐れず、正しく備える
SFTSは、マダニが運ぶ重いウイルス感染症で、日本でも患者さんが増えています。発熱や下痢といった一見ありふれた症状から始まりますが、重症化すると命に関わることもあり、決して軽く見てよい病気ではありません。
けれども、必要以上に怖がることはありません。長袖・長ズボンを身につける、虫よけ剤を活用する、屋外で過ごしたあとに肌をチェックする——こうした日ごろの心がけで、感染のリスクは大きく減らせます。
もしマダニに刺されたあと、あるいは野山で過ごしたあとに、高熱・強い倦怠感・吐き気・下痢などが現れたら、早めに医療機関を受診し、「いつ・どこで屋外活動をしたか」「マダニに刺された可能性があること」を、ぜひお伝えください。早めに気づいて、早めに手を打つこと。それが、あなたとご家族の健康を守る何よりの近道になります。

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
