脂質異常症
増加する脂質異常症~原因・予防・治療の最新ガイドライン
脂質異常症は、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)の値が「高すぎる」「低すぎる」「バランスが悪い」状態を指し、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中などを引き起こすリスクのある病気です。自覚症状が乏しいため、「知らない間に進行してしまう」ことが多く、早期の発見と対策が大切です。
最近の状況と動向
- 厚生労働省の「患者調査(令和5年/2023年)」によると、脂質異常症で治療を受けている人の数は約458万7,000人(男性約152万7,000人・女性約306万1,000人)に上り、前回調査(令和2年)から約57万7,000人の増加
- 国民健康・栄養調査では、総コレステロール値が240 mg/dL 以上の人の割合は男性で約10.1%、女性で約23.1%
- non-HDLコレステロール(LDL以外の動脈硬化性を持ちうる脂質を含む指標)の平均値は、男性で約139.0 mg/dL、女性で約143.5 mg/dL
- 更年期以降の女性で脂質異常症になる率が上がることや、肥満・内臓脂肪の蓄積、中性脂肪高値・HDL低値が慢性腎臓病(CKD)リスクを上げる、などの関連を示す研究が報告されています
これらのデータから、日本でも脂質異常症がかなり一般的で、かつ年齢・性別・生活習慣・ホルモン変化などによってリスクが上がることが明らかになってきています。
脂質異常症とは何か
脂質異常症には主に次のような種類があります:
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い状態
- 中性脂肪(トリグリセリド:TG)が高い状態
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態
以前は「高脂血症」という言い方が一般的でしたが、2007年以降、日本動脈硬化学会などのガイドラインで「脂質異常症」という用語が用いられるようになりました。高LDL・高TGだけでなく、HDL低値も含めて病態を総合的に評価するためです。
また、「non-HDL-C(総コレステロール-HDLコレステロール)」という指標を使うことも推奨されており、これによりLDLだけでなく、残った脂質(レムナントリポ蛋白など)の影響を考慮できるようになっています。
なぜ放置してはいけないのか
脂質異常症を放っておくことには、以下のようなリスクがあります:
- 動脈硬化の進行 → 狭心症・心筋梗塞・脳卒中など重大な心血管疾患の発症リスクが上昇
- 腎機能低下や慢性腎臓病(CKD)の発症リスクが増えることが最近の研究で示されています。特にHDL低値やTG高値、内臓脂肪・肥満がこれに関係
- 遺伝性脂質異常症(例えば家族性高コレステロール血症)の場合、若い時期からLDLが非常に高く、早期から動脈硬化が生じることがあり、通常の生活習慣の改善だけでは不十分なケースもあります
診断・検査
診断のポイントは次の通りです:
1. 血液検査
総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪を測定。空腹時採血が望ましい。随時(非空腹時)またはTGが非常に高い場合には non-HDL-C を使うことも。
2. リスク評価
年齢、性別、家族歴、他の生活習慣病(高血圧・糖尿病・喫煙など)の有無
3. 追加検査
遺伝性が疑われる場合、アポリポ蛋白や遺伝子検査、さらにはアキレス腱の肥厚(LDLが長期間高い場合、腱のコレステロール沈着が現れることがあります)など。
治療と管理
脂質異常症の治療は大きく二つ:生活習慣の改善と薬物療法。ガイドライン(日本動脈硬化学会ガイドライン2022年版など)がこれらの基準を示しています。
生活習慣の改善
食事
- 飽和脂肪酸(肉の脂身・バターなど)を控え、青魚(EPA/DHA を含む魚)、大豆製品、野菜や海藻、きのこ、食物繊維を多く摂る
- 調理法の見直し:揚げ物や脂の多い炒め物を減らし、焼く・蒸す・煮るなどを使う
運動
- 有酸素運動を週に数回行うことが推奨。ウォーキング、水泳、サイクリングなど
- 日常生活で体を動かす工夫(階段を使う、歩くなど)も大事
その他の生活習慣
- 体重管理・肥満対策:特に内臓脂肪の減少が中性脂肪改善・HDL改善に効果あり
- 禁煙・過度の飲酒を避ける
- 睡眠・ストレス管理
薬物療法
生活習慣改善だけでは目標値に到達しない場合、薬物療法が行われます。主なものはスタチン(LDLを下げる)、エゼチミブ、場合によってはPCSK9 阻害薬などです。高リスク群や家族性高コレステロール血症では早期の薬物開始が重要です。
目標値・指針
ガイドラインではリスクに応じて血中脂質の目標値が設定されています。たとえば:
- 冠動脈疾患や心筋梗塞など既往がある人は、LDLコレステロールをかなり低く(例:70 mg/dL 未満など)保つことが推奨されます
- 糖尿病を有する方、他の動脈硬化因子を持つ方もより厳しい目標値を設定されることがあります
誰が注意すべきか(リスク要因)
以下のような人は特に注意が必要です:
- 年齢が上がるほどリスクが高くなる
- 性別:女性では更年期以降、女性ホルモンの低下により脂質プロファイルが悪化することがある
- 肥満・特に内臓脂肪型肥満
- 運動不足
- 食生活の乱れ(脂質過多・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸が多い)
- 高血圧・糖尿病など他の生活習慣病の合併
- 家族歴がある(例:親兄弟に心疾患や脂質異常症の人がいる)
予防のために今日からできること
- 年に1回以上、健康診断で脂質項目(LDL, HDL, TG, 総コレステロール)をチェックする
- 食生活を見直す:バランスを意識し、魚や野菜を増やす、脂っこいものを減らす
- 無理のない運動を日常に取り入れる
- 体重をコントロールし、特に内臓脂肪を減らす努力をする
- 禁煙・飲酒の節度をはかる
- ストレス、睡眠の質を改善する
クリニックからのメッセージ
脂質異常症は「気づきにくい」病気ですが、放置すると心血管疾患の重大な原因になります。一方で、適切な診断と管理を行うことで、そのリスクは大きく減らせます。あなた自身のリスク因子を理解し、一緒に改善策を考えていきましょう。どんな小さなことでも相談してください。

片山クリニック
院長 矢島 秀教
- 日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本医師会認定産業医
