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妊婦・授乳中と薬剤

妊娠・授乳中でも安心して使える薬一覧と解説

〜母と子の健康を守るために知っておきたい薬の知識〜

はじめに

妊娠や授乳の時期は、母親にとっても赤ちゃんにとってもとても大切な期間です。この時期に体調不良や持病の治療のために薬を使わざるを得ない場面は少なくありませんが、「お腹の赤ちゃんや母乳を飲む赤ちゃんに影響はないのだろうか」と心配になる方も多いでしょう。

実際、妊娠・授乳中に使える薬にはしっかりとした臨床経験と安全性の裏付けがあるものがいくつも存在します。本記事では、代表的な薬を一覧にまとめ、それぞれの特徴や注意点についてわかりやすく解説します。

薬剤分類 成分名 商品名例 成人の参考用量例
解熱鎮痛薬 アセトアミノフェン カロナール® 200mg 等 1回300〜500mg、1日3回まで(4〜6時間おき)
甲状腺ホルモン製剤 レボチロキシン(T4製剤) チラーヂンS® 等 通常25〜100 µg/日で開始、維持量100〜400 µg/日。妊娠中は20〜30%増量が必要になることが多い。
鉄剤 含糖酸化鉄・クエン酸鉄など フェロミア® 等 鉄として1日100〜200 mg を2〜3回に分けて投与
抗生物質 ペニシリン系(アモキシシリンなど) アモリン®, サワシリン® 等 1回250mgを1日3〜4回。感染症により最大1日1,500mg。
抗生物質 セファロスポリン系(セファゾリンなど) セファメジン® 静注 等 通常1gを1日2〜3回静注。重症例では増量あり。
吸入ステロイド薬 ベクロメタゾン キュバール® 吸入 等 通常:1回2吸入を1日2回。症状により調整。
吸入ステロイド薬 ブデソニド パルミコート® タービュヘイラー100 µg, 200 µg 通常:1回200 µgを1日2回(合計400 µg/日)。重症例では最大800〜1,600 µg/日まで増量可能。
短時間作用型β2刺激薬 サルブタモール サルタノール® インヘラー100 µg 等 頓用:1回2吸入(200 µg)、1日最大4回まで。
胃酸分泌抑制薬 ファモチジン ガスター®錠10mg, 20mg 等 胃潰瘍・逆流性食道炎などで1回20 mgを1日2回、または40 mgを1日1回(就寝前)。
粘膜保護薬 スクラルファート アルサルミン® 錠/懸濁液 等 1回1gを1日2〜4回(食後・就寝前)。
不活化ワクチン インフルエンザワクチン インフルエンザHAワクチン「ビケン」等 成人:0.5 mLを1回筋肉注射。毎年流行前に接種。妊娠・授乳中も接種可能。

個別の薬剤解説

1. アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)

商品名例: カロナール® 200mg 等
参考用量: 1回300〜500mg、1日3回まで(4〜6時間おき)

妊娠中や授乳中でも使用できる代表的な解熱鎮痛薬です。頭痛、発熱、筋肉痛など幅広い症状に用いられ、妊婦でも安全性が高いと考えられています。市販薬にも含まれているため身近な薬ですが、過量になると肝臓に負担がかかるため、注意が必要です。

2. レボチロキシン(甲状腺ホルモン製剤)

商品名例: チラーヂンS®
参考用量: 通常25〜100 µg/日で開始、維持量100〜400 µg/日

甲状腺機能低下症の治療に使われる薬です。妊娠中に甲状腺ホルモンが不足すると、母体にも胎児にも悪影響を及ぼすため、治療を続けることがとても重要です。妊娠するとホルモンの必要量が増えるため、通常は投与量を20〜30%増やすことが推奨されます。授乳中も安全に使用できます。

3. 鉄剤(含糖酸化鉄・クエン酸鉄など)

商品名例: フェロミア®
参考用量: 鉄として1日100〜200 mgを分2〜3回に分けて投与

妊娠中は鉄分が不足しやすく、貧血のリスクが高まります。鉄剤は胎児の発育や母体の健康を守るために欠かせない薬です。鉄剤自体が赤ちゃんに悪影響を与えることはほとんどありません。副作用として便秘や胃部不快感が出ることがありますが、剤形や飲み方を工夫することで軽減できます。

4. ヘパリン(抗凝固薬)

商品名例: ヘパリンカルシウム皮下注5,000単位/0.2mLシリンジ「モチダ」等
参考用量: 予防量は皮下注5,000単位を1日2回。治療量は初回静注5,000単位、その後持続投与でAPTT調整

血液を固まりにくくする薬で、血栓症の治療や予防に使われます。ヘパリンは胎盤を通過しないため、妊娠中でも安全性が高い薬として知られています。授乳中も母乳に移行する量はごくわずかです。使用中は出血傾向が強くならないよう、定期的な血液検査が必要です。

5. ペニシリン系抗生物質(アモキシシリンなど)

商品名例: アモリン®, サワシリン®
参考用量: 成人1回250mgを1日3〜4回。最大1日1,500mg

細菌感染の治療に広く使われる抗生物質です。妊娠・授乳中にも使用できる抗生物質として古くから実績があり、安全性が確立されています。副作用としては下痢や発疹が出ることがありますが、胎児や乳児への影響はほとんど報告されていません。

6. セファロスポリン系抗生物質(セファゾリンなど)

商品名例: セファメジン® 静注
参考用量: 成人で通常1gを1日2〜3回静注。重症例では増量あり

ペニシリン系と同様に妊娠中でも比較的安全に使える抗生物質です。手術の際の感染予防や重症感染症の治療に用いられます。アレルギー反応が出ることがあるため、投与歴がある場合は注意が必要です。

7. 吸入ステロイド薬(ベクロメタゾン)

商品名例: キュバール® 吸入
参考用量: 200〜400 µg/日を分割吸入

喘息の長期管理に使われる薬です。吸入タイプなので全身への影響が少なく、妊娠中も安心して使えます。吸入後は口をゆすぐことで喉の違和感や口腔カンジダの予防につながります。

8. 吸入ステロイド薬(ブデソニド)

商品名例: パルミコート® タービュヘイラー100 µg, 200 µg
参考用量: 1回200 µgを1日2回(合計400 µg/日)。重症例では最大800〜1,600 µg/日まで増量可能

国際的にも妊婦に最も推奨される吸入ステロイド薬のひとつです。多くの臨床データで胎児へのリスクが少ないことが確認されており、授乳中も安全性が高いとされています。妊娠中に喘息を放置すると胎児への酸素供給に影響するため、薬を使ってコントロールすることが大切です。

9. サルブタモール(短時間作用型β2刺激薬)

商品名例: サルタノール® インヘラー100 µg
参考用量: 成人で1回2吸入(200 µg)、1日最大4回まで

喘息発作が起きたときに気道をすばやく広げて呼吸を楽にする薬です。発作のコントロールに欠かせない薬で、妊娠中・授乳中にも使用可能とされています。ただし頻用すると副作用(動悸や手の震え)が出やすくなるため、吸入ステロイドと併用して発作を予防することが重要です。

10. ファモチジン(胃酸分泌抑制薬)

商品名例: ガスター®錠10mg, 20mg
参考用量: 1回20 mgを1日2回、または40 mgを1日1回(就寝前)

胃酸を抑えて胃潰瘍や逆流性食道炎を改善する薬です。妊娠中の胸やけや胃の不快感にもよく使われます。母乳への移行も少なく、授乳中にも比較的安全と考えられています。

11. スクラルファート(粘膜保護薬)

商品名例: アルサルミン® 錠/懸濁液
参考用量: 1回1gを1日2〜4回(食後・就寝前)

胃や十二指腸の粘膜を保護する薬です。全身に吸収されにくいため、妊娠・授乳中でも安心して使える薬とされています。他の薬と一緒に飲むと吸収に影響を与えることがあるため、服薬間隔をあけることが推奨されます。

12. インフルエンザワクチン(不活化ワクチン)

妊娠中のインフルエンザ感染は、重症化や合併症を起こすリスクが高いことが知られています。また、妊婦がワクチンを接種することで胎児や新生児にも抗体が移行し、生後数か月間のインフルエンザ発症リスクを減らす効果が期待できます。

使用されるのは「不活化ワクチン」であり、ウイルス自体の感染力はありません。接種後に一時的な発熱や注射部位の腫れなどの軽い副反応が起こることはありますが、妊娠・授乳中の母子に重大な害を及ぼすことはほとんどないとされています。

授乳中の母親が接種しても母乳を通じて赤ちゃんに影響することはないと考えられています。むしろ、母親の感染予防が赤ちゃんの健康にも直結します。


まとめ

妊娠・授乳中は薬を使うことに大きな不安を感じる方も多いですが、実際には「使わないことのリスク」のほうが大きい場合もあります。例えば喘息治療薬を中断すると、母体の酸素不足が胎児に影響を及ぼす可能性がありますし、甲状腺ホルモンが不足すれば赤ちゃんの発育に関わります。

今回ご紹介した薬はいずれも、妊娠・授乳中に比較的安全性が確認されている代表的な薬です。ただし、用量や使用期間は人によって異なります。自分の体調や赤ちゃんの成長に合った形で治療を継続することが大切です。

参考:妊娠時の安全性評価・授乳中のカテゴリー Contents(神戸医療センター)

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